国家以上に素晴らしい頌辞を呈せられた制度は少ないのであるから、これらの頌辞の理由とするところを理解することが大切である。これらの頌辞で、現実の国家を讃えたものは稀である。
― ラスキ『国家』p1
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国家以上に素晴らしい頌辞を呈せられた制度は少ないのであるから、これらの頌辞の理由とするところを理解することが大切である。これらの頌辞で、現実の国家を讃えたものは稀である。
― ラスキ『国家』p1
イーストンは国家の定義に関してこう嘆いています(David Easton, The Political System: An Inquiry into the State of Political Science, 1953. 山川雄巳訳、『政治体系―政治学の状態への探求』、ぺりかん社、1976年、p122)。
国家とは何か。ある著者は、国家についてのそれぞれ独自な145個の定義を集めたと主張している(9)。ひとつの述語について、これほど意見が一致しないというのも珍しい。現在の国家概念をめぐる混乱はあまりに大きいので、この問題が、さまざまな形で過去2500年以上にもわたって論じられてきたのだということが、ほとんど信じがたいぐらいである。
で、国家の概念を使うのはやめてしまえと主張しているのです。国家概念を使うのをやめてしまってはここのサイトは成り立たないので困ります。ただ国家の多義性は常に念頭においておかないといけませんね。
ちなみに、145個の定義を集めたという論文は
(9) C.H. Titus, “A Nomenclature in Political Science,” 25 American Political Science Review (1931), 45-60, on p.45.
だそうです(p120)。私は未見なのでいつかチェックしたいと思います。
史料上の国家の語-日本古代からの続きです。
鎌倉時代の国家の語は、古代に引き続き天皇を中心とした朝廷を指し、
日蓮の説く「国家」のありようにしても、常に天皇・朝廷の存在を念頭において観念され、その周辺に凝縮していく傾向をもっている。〔新田一郎『中世に国家はあったか』2004年p4〕
日蓮は「守護国家論」を著作しています。
戦国時代には、天皇・朝廷の意味から離れ、「戦国大名の領国」(日本国語大辞典)を意味し、その「支配者と支配機構(家臣団)」(国史大辞典)を指すようになります。朝倉孝景条々など。
史料上の国家の語-日本近世に続きます。
ウェブで手軽に引けるCompact Oxford English Dictionary で、stateの項を引いてみましょう。第一項は日本語で「状態」の意味、第二項が「国家」に相当します。
2 a nation or territory considered as an organized political community under one government.
訳すと「ひとつの政府のもとで組織された政治共同体として考えられるネイションあるいは領域」です。naitonは国民か民族と訳すことが多いけれど、色々微妙な問題があるので、ここではカタカナでネイションとしています。被治者を含む政治共同体とする点でヴェーバーやラスキらの定義と似てます。
「ひとつの政府のもとで組織された」のあたりが絶妙な限定条件ですね。地方公共団体は、中央政府と地方政府という二つの政府のもとで組織されているから国家でない、といえるわけです。これは上手い。
国家イコール政府とする見解に相当するのは第5項です。
5 the civil government of a country.
訳すと「一国の文民政府」。civilはmilitaryに対する語で「軍事政府ではない」という意味だと思われます。文民政府と訳しましたが、よく分かりませんので、英語に達者の方に教示いただけたら幸いです。
日本国語大辞典での国家の定義と同様で、どっちのも意味もあるわけですね。
このほか、連邦構成州の意味だとか、the States の形で米国の意味だとか、なども載っていますが省略。
他の英語辞典については、dictionary.com というサイトで引けます。stateの項については次のリンク先で表示されます。http://dictionary.reference.com/browse/state
日本国語大辞典(初版)の国家の項です。
(1)一定の地域に住む人々を支配、統治する組織。
これは国家イコール政府とする見解に近いです。
(2)特に、近代、一定の領土を有し、そこに居住している人々で構成され、一つの統治組織をもつ団体。
これは芦部のよる国家の定義に近いです。
(3)特に天皇を指す。… (4)戦国大名の領国。… (5)国と家。… (6)江戸時代、一国以上を領有する大名。
と続きます。今日は時間が無いので、以上で失礼します。
言葉の定義に関してはまず辞書を引用するのが出来の悪い著作物の定番ですから、ここでも国家の定義について辞書を引いてみます。
まずは手軽にウェブで引ける国語辞典。gooが提供する国語辞典における国家の項は、三省堂『大辞林』第二版を出典としているようですが、第一項で漢籍にみえる国家の語について、第二項としてstateの訳語しての国家について説明しています。これによるとstateの訳語としての国家は、
〔state〕一定の領域に定住する人々が作る政治的共同体。…
と定義されています。
最高とか独占とか始源とかの限定条件が付いていない点は芦部による国家の定義と同様ですので、「村落も国家かよ」と突っ込みたくなりますが、それはさておき。
stateの訳語としての国家が一般の民間人を含む政治共同体であると定義されていることは間違いないようです。「国家には一般の民間人は含まれない」という主張は読み取れません。
ここで引いた国語辞典はしょせん一冊本ですので、もっと権威のある日本国語大辞典なども引いてみましょう。日本国語大辞典での国家の定義の項を作成する予定です。
また英語辞典をstateを引くほうが手っ取り早いかもしれませんね。これは英語辞典でのstateの定義にて。
ラスキによる国家の定義では、国家と政府を区別することが政治学の基本定理であるとされていましたが、これとは全く逆の見解もあったりします。
例えば、飯尾潤『日本の統治構造』(中公新書、2007年)。これはサントリー学芸賞という賞を受賞するなどなかなか評判のよろしい本らしいですが、そのp72にこんなことが書いてあります。
西洋流に国家をステート(state)の訳語であると考えると、その国家には一般の民間人は含まれない。国家は支配機構である政府を意味するからである。西洋の政治学では、国家(state)と社会(society)の二分法をもとに議論を展開することが多い。国家に社会は含まれないのである。
まさにラスキやヴェーバーによる国家の定義と全く逆で、国家イコール政府としています。なんでこんな見解が存在しているのか、その謎を探っているところです。
マルクス主義政治学では国家を支配機構と見做すので、マルクス主義政治学が国家イコール政府説の源泉の一つだと考えられます。
もうひとつは、20世紀の終わり頃、アメリカ政治学界で国家論の復興というムーブメントがあったのですが、そこでいう国家とは国家イコール政府、国家イコール行政府、などと定義されていた、と日本で紹介されることがあります。ここらへんは伝聞のみで原典を確認していないのではっきりしません。いつか確認したら記事にしたいと思います。
Laski, H.J., The State in Theory and Practice, 1935
訳書の書誌情報 http://opac.ndl.go.jp/recordid/000000886391/jpn
国家概念を黙殺する多元主義国家論で有名なラスキが、その多元主義を脱した後に書いた著作です。
これを書いた時期のラスキはマルクス主義に傾倒していたといわれていますが、国家を権力組織とみる所謂マルクス主義国家論とは異なります。ラスキによる国家の定義にも書いたように、ラスキにとって国家とは、支配機構を有する国民社会全体を指しているのですから。
20世紀前半の英米政治学からみた国家論のサーベイとして優れていると思われます。日本でも人気だったラスキの著書なのに、何故もっと注目されないのか不思議です。
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